東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1102号 判決
成立に争のない甲第八号証の一、二、第十号証の一、二、原審証人古屋貞雄の証言により成立の認められる甲第五号証、原審証人森逸雄、同鈴木芳雄、同福島良明、同原久雄の証言並びにこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証を総合するときは、次の事実を認めることができる。即ち
(い) 財産税法及び戦時補償特別措置法によつて物納された国有財産中不動産の売払に関しては昭和二十二年六月二十八日大蔵省国有財産局長通牒により、原則として雑種財産の一般売払の例によつて行われてきたのであるが、更に同省は昭和二十二年十一月「物納不動産委託売払について」と題する各財務局長宛国有財産局長通牒を発し、民間業者に売払の委託をなすこととなつた。そして右通牒(甲第八号証の二参照)によれば、右売払の委託は別紙要領によるべきものとし、更に注意事項として右委託売払を認めた趣旨は物納不動産の資金化の迅速を図るためであるが、これは受託者たる信託会社等を官庁の手足として活動させるもので不動産を信託して処分させるものでないことを明らかにし、従つて受託者に対しては売払の手続については国の実施している処理手続に拠らしむべく、受託者は国から処分の事務手続を委託されたもので処分代理権を与えられていないから、すべて財務局長の名においてなすべく、例えば委託物件売却の代金を徴する場合も、才入徴収官吏の発する納入告知書によらなければならない、とされている。そして右別紙「物納不動産委託売払要領」よれば、受託者がなす売払契約は財務局長等の名において行うべきこと、受託者が売払を委託された財産の売払をなす場合には、売払に関する関係法令等によつて行わなければならないと規定し、且つ受託者との間に締結せらるべき委託契約の基準として定められた別紙「物納財産売払委託契約書」の雛形書式によれば、その第一条において、甲(委託者たる財務局長等以下同じ)は乙(受託者たる業者以下同じ)に対し……不動産の売払事務を委託し、これにつき乙は甲の名において売払を行うものとする。同第四条において、売払を委託した財産の売買契約の締結及びその履行等売払に関する一切の手続は乙においてこれを行う。前項の場合においては関係法令に準拠してこれを行うことを要し、これに関し甲のなした指示を遵守する。等の条項が定められていた。訴外日本信託銀行株式会社においても昭和二十三年度及び同二十四年度(同二十二年度及び昭和二十五年度は委託契約なし)においては前示基準による物納財産売払委託契約書(成立に争のない甲第十号証の一、二)により国から物納不動産の売払の委託を受けてその事務を処理してきたのである。
(ろ) ところがその後受託者たる一般業者のうちには右委託契約条項の趣旨を曲解するものがあつて、そのとつた措置に種々弊害を生ずるに至つたので、昭和二十六年二月、前示「物納不動産委託売払要領」を改正して受託者との間に締結すべき「売払委託契約書」を「売払仲立委託契約書」に改め、受託者たる業者に対しては不動産の売払の仲立を委託しその指示に従い売払の媒介を行わしめるに止め、売払の仲立を委託した財産について国との間に売買契約が成立した場合には、受託者は売買契約書案二通を作成し、売買当事者の記名捺印を得て各一通を売買当事者に交付し、売払代金完納の後において遅滞なく所有権移転登記手続の事務、その他財産の売買契約の履行に関する事務を委託者の指示に従つて行うものとし、受託者に対し名義の何たるを問わず売払代金の全部若しくは一部または契約保証金その他一切の現金を受領することを禁ずることを定め、以てその権限の範囲を明確にした。訴外日本信託銀行株式会社においても右改正の趣旨に則り昭和二十六年四月一日委託者たる関東財務局目黒出張所長大蔵事務官矢野弘との間に前示趣旨を内容とする「物納財産売払仲立委託契約書)(前顕乙第一号証)にもとずく仲立委託契約(その委託の目的たる不動産のうちに本件土地も含まれている)を締結して爾来その受託業務は前示の如く物納不動産の売払に関する仲立媒介に限定せられ、右に明示された範囲において受託事務を行い来つたものであつて、売買契約締結自体の権限はあくまで所管庁に保留されていたものである。
(二) 本件土地は元訴外田丸総一郎の所有であつたところ、昭和二十二年六月十三日同訴外人において財産税納入に充てるため被控訴人国に物納し、国の所有に帰属したことは当事者間に争がないところ、控訴人は昭和二十六年十一月頃右物納不動産につき被控訴人国から売買契約の締結及びその履行等売払に関する一切の手続を国において自ら行い得る権限を授与されていた訴外日本信託銀行株式会社との間に売買契約が成立した旨主張するけれども、少くとも右売買契約の成立したという昭和二十六年十一月当時においては前示認定によつて明らかな如く、訴外信託銀行においてかかる売買契約締結の権限を有しなかつたこと明白であるから、そのこれあることを前提とする控訴人の主張は訴外信託銀行との間の売買契約の合意の成否を論ずるまでもなく失当である。
(柳川 坂本 中村)